裁決書

 

審査請求人 別紙第1「審査請求人目録」記載のとおり

処 分 庁 川崎市長 阿部孝夫

参 加 人 別紙第2「参加人目録」記載のとおり

 

 上記審査請求人が、200674日付けで提起した都市計画法第29条の規定に基づく開発行為の許可処分と宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事許可処分の取消しを求める審査請求及び同年1114日付けで提起した法第35条の21の規定に基づく開発行為変更の許可処分の取消しを求める審査請求並びに平成19312日付けで提起した法第35条の21項の規定に基づく開発行為変更の許可処分(以下「本件変更許可処分(2)」という。)と法第37条の工事完了公告前の建築又は建設承認の取消しを求める審査請求について、次のとおり裁決する。

 なお、本件審査請求(1)、本件審査請求(2)、本件審査請求(3)は相互に関連するので、行政不服審査法第36条の規定に基づき、併合して審査した。

 

主  文

 

別紙に記載する審査請求人の本件審査請求(1)、本件審査請求(2)、本件審査

請求(3)のうち、本件許可処分、本件変更許可処分(1)及び本件変更許可処

分(2)の取消し」を求める部分の請求を棄却し、「宅地造成等規制法に基づく

地造成工事許可処分の取消し及び法第37条の工事完了公告前の建築又は建設承

認の取消し」を求める部分の請求を却下する

 

事  実

 

 川崎市長阿部孝夫(以下「処分庁」という。)は、平成18510日付け」川

崎市指令麻建(イ)第2号をもって、株式会社セプテムコーポレーション代表取蹄

役鶴岡典昭(以下「事業者」という。)に対し、川崎市麻生区上麻生7丁目274

の一部ほか6筆の一部409269平方メートルの土地(以下「本件開発区域」

という。)に係る共同住宅を予定建築物とする本件開発行為の本件許可処分と同日

付け川崎市指令麻建(ア)第10号をもって、事業者に対し、宅地造成等規制法に

基づく宅地造成工事許可処分を行った。

 また、処分庁は、同年915日付け川崎市指令麻建(イ)第18号をもって、

事業者に対し、本件変更許可処分(1)を行った。

 さらに、処分庁は、同年1214日付け及び同年同月27日付け並びに19                                         

126日付けで本件変更許可処分(2)(3件の変更許可処分をまとめて。)と

工事完了公告前の建築又は建設承認(以下「建築制限解除」という。)を事業者(1

811月に株式会社アーバンコーポレイションが加わる。)に対し行った。

 これに対し、審査請求人は本件開発区域隣地等に住所を有する者9名であり、本

件許可処分と宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事許可処分を不服として、平成

1874日付けで川崎市開発審査会(以下「審査庁」という。)に審査請求書

を提出した。

 また、本件変更許可処分(1)を不服として同年1114日付けで審査庁に審

査請求書を提出した。

 さらに、本件変更許可処分(2)と工事完了公告前の建築又は建設承認を不服と

して平成19312日付けで審査庁に審査請求書を提出した。

 

理  由

1 審査請求人の主張

 

審査請求人は、<略>おおむね、次のとおり主張した。

 処分庁は弁明書で宅地造成工事許可処分の取消しを開発審査会に審査請求でき

ないとあるが、審査会の判断をまちたい。

 

1)法第33条第1項第1号への不適合について

 法第33条第1項第1号が「予定建築物等の用途が当該用途地域等に適合してい

ること」と規定しており、予定建築物の用途が当該用途地域(本件の場合、第1

中高層住居専用地域で第2種高度地区のため高さの最高限度15メートル)につい

ての諸規定に適合すべきことを求めていると解すべきである。ところが、西棟で

20.47メートル、一部で2609メートル(正しい数値では)であり、違反している。

 弁明書(2)は共同住宅であれば高さに関係なく共同住宅が建つことになる。予                                               

定建築物は高さ15メートル以内に限定されるということが判断基準の内に含ま

れていなければならない。

 

2)意図的盛土の違法性について

 事業者が市に提出した開発許可申請の図面、「造成計画平面図」と「造成計画

 断面図(がけ・擁壁の断面図)」によると予定建築物の特徴は基準地盤面の操作・

 かさ上げを目的とした意図的盛土が建築物周辺に廻らされている。

 開発段階ではこの盛土を予定建築物の周辺部分だけでなく底辺部分にまで拡

 大して築いたうえで、建築段階ではこの盛土の大部分を(建築物周辺部を残して

 底辺部分については)撤去するという、2度手間をかけるような非常識な企画が

 立てられている。しかしながら、開発計画と建築計画とは一体のものである。

 近隣住民に配布された「土地利用計画図」、「造成計画平面図」、「同断面図」に

 よれば、2か所で意図的盛土がなされようとしている。

 1か所目では、最大65メートルの盛土となり、この目的は「建築物が周囲

 の地面と顔する位置」(建築基準法施行令第2条第2項)を意図的に高め、本来

15メートルの高さ制限が課せられた地域なのに盛土の結果、平均地盤面が高め

 られ西棟は地下2階地上5階(合計20.47メートル)に高められ、高さ制限を潜

脱する違法な盛土である。

 2か所目では、最大5メートルの盛土となり建築物が接する地面を意図的に高

め、これを一辺とするエリアを作り東棟の主要部分にしようとしている。この意

図的盛土がなければ東棟の建設が不可能であって、高さ・容積の規制を潜脱する

違法な盛土である。

 これらの盛土は、安全上・衛生上必要なものでなく、むしろ場所によりマイナ

スの作用をもち、もっぱら建築物の主要エリアの平均地盤面を意図的に作り出し、

高さや容積の制限を乗り越え、本来造ることのできない建築ボリュームを造るた

めである。

 このような意図的盛土は昨年横浜地方裁判所で建築基準法違反と判断された。

本件はここで指摘されたのと同様の建築基準法第58条違反の性質をもち、結果

として法第33条第1項第1号違反をも生み出している。このような違法性をも

つ盛土の計画は、法第2条が「基本理念」として掲げる「土地の合理的な利用」

に反する。

 意図的盛土について市は市議会環境委員会で開発許可にともなう造成計画の

審査は、主に安全性を基準になされるもので、盛土による基準地盤面の設定の当

否は対象外であるという見解を示したが、法の「目的」(第1条)の「都市の健

全な発展と秩序ある整備を図り、公共の福祉の増進に寄与する」に反する。

3)違法な盛土の隠蔽策について

 許可申請の図面によれば、盛土を予定建築物周辺にだけ限定せず、予定建築物

の底辺にまで広がる盛土とコンクリート擁壁まで築こうとしている。申請図面は

予定建築物を点線で描くことにより、平均地盤面かさ上げのための意図的盛土を

覗かせている。開発直後の建設段階で撤去する予定の広大な盛土やコンクリート

擁壁をわざわざ設置するという開発計画は、不合理極まりない。こうした無駄で

不合理な計画は法第2条の「土地の合理的な利用」に反する。<略>

 

4)前回図面から今回図面への変更点について

18915日の変更許可の図面(以下「前回図面」)と同年1214

の変更許可の図面(以下「今回図面」)の大きな変更点は、前回図面では予定建

築物が点線で描かれ、予定建築物の周辺ならびに内部にまで盛土と擁壁が築かれ

るように描かれていたのに対し今回図面では予定建築物そのものの図が実線で

描き込まれており、また予定建築物の内部に相当する部分に前回図面で描かれて

いた盛土・擁壁がすべて削除されている。

 近隣住民の会が18927日に事業主のセプテム社に、「前回図面の盛

土・擁壁は建築制限解除により実際には築かれないにもかかわらず、なぜ図面に

書き込まれているのか」と質問したところ、「計画している宅地造成が建物のな

い状態でも宅地造成等規制法及び関連法規制に準ずるものであることを示すた

めに市の要請により作成されたものです」と回答している。処分庁も弁明書で否

定していない。考えられる理由は、審査請求人が前回図面の建物内部の盛土・擁

壁は建築制限解除により実際には築造されないのであるから、この部分は架空・

虚構のものではないか、架空な図面に対する許可は取り消されるべきだと批判を

行ってきたが、この批判を認めざるをえなかったため、事業者又は処分庁が前回

図面を撤回して今回図面を提出したのであろう。

 ここで疑問が生じる。予定建築物内側部分の盛土・擁壁を描いた前回図面が「宅

地造成等規制法及び関連法規制に準ずるもの」であったとすれば、これを削除し

た今回図面は「宅地造成等規制法及び関連法規制に準ずるもの」とは言えなくな

ったのではないか、ということである。宅地造成等規制法は、「宅地造成に伴い

がけくずれ又は土砂の流出」が起きないよう「災害の防止のため必要な規制を行

う」(第1条)法律である。「宅地造成等規制法及び関連法規制に準ずる」かどう

かについて、全くあい反する前回図面と今回図面が計画変更という理由を掲げて、

いずれも市長の許可を受けたことは認めがたいことである。

 前回図面を許可した処分庁は、今回図面を不許可とすべきである。

 開発・宅造許可処分庁は意図的盛土による平均地盤面かさ上げという問題に目

をつぶって盛土を含む開発・宅造計画に許可を出し、建築確認処分庁は、開発・

宅造許可が出されたことを理由として、この盛土による平均地盤面かさ上げを容

認という事態になっている。

 このような部分について、審査するところがないことが問題である。

 

5)計画地東側空地の土砂災害の懸念について

 計画地東側は現況かなり急傾斜の土地で切土、盛土、切土、擁壁建造などの工

事が続くなかで、築かれたコンクリート擁壁のかなりの部分が、開発後、建築段

階に入れば撤去されて、その後に東側建築物が建設される2度手間の作業予定で、

工事中集中豪雨等が襲った場合土砂災害等の恐れがある。さらに地表に残された

切土・盛土の強度などが豪雨等に耐えられるのか危惧される。法第33条第1

2号は「空地が災害の防止上支障がないような規模及び構造で適当に配置さ

れ」ることを求めている。そして勘案すべき事項として「イ開発区域の規模、形

状及び周辺の状況」、「ロ開発区域内の土地の地形及び地盤の性質」、「ニ予定建築

物等の敷地の規模及び配置」が述べられているが、これら勘案すべき諸点から見

て災害の危険性を強く感じさせるものであり、同法第33条違反である。

 

6)大雨の際の溢水の懸念について

 この計画地は斜面緑地の窪地で、雨水対策の問題点が2つある。1つは計画地

内部の雨水対策として西棟地下に134立法メートルの貯留槽となっているが、

『川崎市宅地開発指針』で計算すると145立法メートルの容量が必要なので過

少となる。もう1つは計画地の北側竹林(09ヘクタール)からの雨水対策で、

境界線に沿ってU字溝(幅30センチメートル、深さ36センチメートル)を設

置し、開発道路内の雨水管(管径45センチメートル)に接続することになって

いるが、竹林面積から見るとU字溝は小さく大雨のときマンション敷地内に流れ

込んだり、周辺道路に溢れる懸念がある以上その災害は周辺住民等に及ぶ。この

対策として、貯留槽などの対処が必要なのではないか。

 法第33条第1項第3号は「排水路等が排出により溢水等による被害が生じな

いよう設計が定められていること」を求めているが、この開発計画はこの規定に

反している。

 

7Aランクの斜面緑地の破壊について

 「川崎市緑の保全及び緑化の推進に関する条例」の「斜面緑地A」と評価され

た所にマンション建設のため緑地の破壊を許可することは条例違反である。市緑

政課は土地の買取りについてハイレベルの交渉をさらに強力に推進すべきであ

つた。同条例第30条の2で市長は事業者が「自然的環境保全配慮書」を提出し

たとき、必要な助言又は指導を行うものとすると規定しているが、適正に行われ

ていない。こうした緑破壊容認のうえで出された開発行為許可処分は同条例第3

0条の2に違反している。

 同条例にもとづいて定められた「川崎市緑化指針」は3000平方メートル以上

の共同住宅建設の開発事業は、区域内の10パーセント以上を保全回復型の緑地

として確保し、その内訳は6パーセントの公園又は緑地に、隣接して4パーセン

ト以上の保全・回復型緑地をとなっているが、提供公園は53パーセントで現

況は駐車場であり、保全回復型の緑地に該当しない。また隣接の緑地は階段等で

遮られ切れ切れのものである。このような計画は「川崎市緑化指針」に反し同条

例に違反する。

 

8)手続き上の瑕疵について

 市の公園緑地課が提出した「総合調整条例に関する意見伝達書」に「公園隣接

地主と境界を確定し、同意書の写しを提出してください」とあるが、少なくとも

隣接地主1人とは実行されていないのに一部地域について地主の同意書が未提

出のまま開発許可が出された。これは手続き上の瑕疵である。

 

9)建築制限解除について

 94日に建築制限解除を承認したことを知った。2度にわたる弁明書におい

て、何故建築制限解除が承認されたということを明らかにしなかったのか。

ア 開発計画の架空性について

 建築制限解除により予定建物の躯体部分の盛土・擁壁の造成と撤去という二度

手間工事は行われないことになった。だとすると架空の計画に対する許可という

ものになったのではないか。申請図面と現実の工事とがあまりにもかけ離れるこ

とになった以上、市は開発・宅造許可を一旦取り消すべきではないか。そして事

業者は現実の工事に即した開発・宅造計画を立て直し改めて申請し、市は許可の

審査をやり直すべきではないか。

イ 検査は可能なのか。

 法第36条第2項は、工事完了の届出に対し、「当該工事が開発許可の内容に

適合しているかどうかについて検査」すると規定しているが、建物の躯体部分の

盛土・擁壁築造という開発許可の内容が架空なものとなり、工事も行われないこ

とになると検査は事実上行えないことになる。

ウ 工事の安全性は確保されるのか。

 許可を受けたはずの開発計画のかなりの部分が実は架空なものであり、実際の

 工事がこれと異なるものとなった場合、実際の工事の安全性はどのように担保さ

 れるのか。

エ 建物周辺の潜脱的盛土は「後埋め工法」によるのか。

 開発申請図面によれば平均地盤面かさ上げを目的にしていると考えていた。とこ

ろが建築制限解除が承認され建物躯体部分の盛土がなされないとなると建物の高

さ制限潜脱目的の盛土は「後埋め工法」により築かれることになると思われる。こ

の場合、「建築物が周囲の地面と接する位置」の位置を建築後に意図的に高めよう

とする盛土の非合理性・違法性は一層際立つ。

10)審査請求人の適格性について

  審査請求人はいずれも計画地周辺の住民であり、開発とマンション建設の結果、

 緑の破壊、景観・眺望の妨げ、圧迫感、プライバシーの侵害(覗かれる)、風害

 などの被害を受けるとともに豪雨や地震の際の溢水と土砂災害と家屋・擁壁の歪

 み・ひび入れの懸念、マンション入居者増加に伴う交通渋滞・交通事故を危惧し

 ている。

  さらに工事に伴う騒音・振動の被害が甚だしく豪雨・地震に伴う溢水・土砂災

害等の危惧をもち、また工事車両による交通渋滞・交通事故の懸念も大きい。こ

の開発許可・宅地造成許可処分が取り消されれば、これらの被害と懸念から開放

されることになる。

  弁明書は、審査請求人は「審査請求人としての適格性を欠く」と言っているが、

行政事件訴訟法の平成166月の改正で第9条に第2項が付加され、「法律上

の利益」の解釈の幅が大きく広げられた。この2項で「法律上の利益の有無を判

断するに当たっては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによ

ることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利

益の内容及び性質を考慮するものとする。」「当該利益の内容及び性質を考慮する

に当たっては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に

害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度を

も勘案するものとする」となった。この法改正にもとづき最高裁大法廷は17

127日小田急線連続立体交差事業認可処分取消等請求事件の判決で原告適

格条件を広く認め「事業地の周辺に居住する住民のうち当該事業が実施されるこ

とにより騒音、振動等による健康又は生活環境に係る著しい被害を直接的に受け

るおそれのある者は、当該事業の認可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有

する」と判示した。(日弁連ホームページ)また、行政不服審査法第1条の規定

がある。審査請求の適格性を論じるためには、以上の諸規定や判例などが前提と

なる。                               

11)審査請求人の「知る権利・批判の権利」について

 平成181214日に許可した計画変更のことを1925日まで、1

カ月半以上も知らせなかったことに抗議する。新たな情報を知らせるということ

は、審査請求人(市民)の「知る権利・批判の権利」を保証するために不可欠な

ものである。

12)眺望権の侵害について      

 予定建築物が建築されることにより、現在の丹沢・富士山等が見える、すばら

しい眺望が損なわれる。

 

2 処分庁の弁明

 

 処分庁は、<略>おおむね、次のとおり弁明した。

 開発許可権者が開発許可をするに当たって、法に規定する開発許可の基準に拘束

されるものであり、当該基準に適合している以上は必ず許可をしなければならない

義務を負わされている。

 本件開発行為において、その申請内容を審査した結果、法第33条の許可基準に

適合しており、かつ、その申請の手続きが法及び法に基づく命令の規定に違反して

いないと認め、法第35条の規定に基づき本件開発許可をしたもので、適法である。

1)法第33条第1項第1号への不適合について

 法第33条第1項第1号は、開発許可の申請に係る開発区域内の土地について用

途地域が定められているときは、予定建築物等の用途がこれに適合することを開発

許可の基準とするものである。

 本件開発区域は第1種中高層住居専用地域で建築基準法第48条第3項に規定

する別表第2(は)項の「第1種中高層住居専用地域内に建築できる建築物」の共

同住宅に該当する建築物を予定建築物としていることから、本件予定建築物の用途

は当該用途地域に適合しているものと判断する。

2)意図的盛土の違法性について

 設定された地盤に対する高さや算定方法については建築基準法上の規定とされ、

開発許可基準には建築物の設計地盤、地盤面に対する高さや容積率について

の審査規定はない。ただし、開発行為により生じたがけ面が崩壊しないように擁壁

の設置等安全上必要な措置が講じられることを許可基準とし設計内容を審査して

いる。

 横浜地方裁判所の裁判例を列記し、「同様の違法性を含むと考えられる」と主張

するが、行政法規のどの規定に違反しているのか述べられていない。

 法第2条の目的を達成するために法の各条文が定められており、本件開発行為の

申請内容を審査した結果、法第33条の許可基準に適合しており、かつ、その申請

の手続きが法及び法に基づく命令の規定に違反していないと認め、法第35条の規

定に基づき本件開発許可をしたもので、適法であり、法第2条の目的に反していな

い。法第2条は都市計画の基本理念を述べたものである。また、本件開発許可は法

33条第1項第1号に適合していることから都市計画の基本理念を損ねている

との主張は失当である。

法第1条に反するとの主張については、本件開発許可をするに当たっては造成行為における

建築確認処分の適否について審査するものではない。<略>

 良質な宅地水準の確保は、具体的には法第33条の技術基準により担保され、本件開発行

為において、その申請内容を審査した結果、法第
33条の許可基準に適合しており、法第1

に反していないものと判断する。

3)違法な盛土の隠蔽策について

 法施行規則第16条では、開発許可申請の際、造成計画平面図、断面図に明示す

べき事項として切土又は盛土をする土地の部分、切土又は盛土をする前後の地盤面

などが定められており、請求人らの言う部分は盛土後の地盤面を示すものである。

また、開発計画は法第2条に反すると主張するがし開発許可申請の審査は、開発行為により

土地の区画形質がどのように変更され、開発行為により完成するものが法 

33条第1項各号の基準に適合するか否かを判断するものであり、請求人の主張

は当を得ない。

4)前回図面から今回図面への変更点について

     <略>

5)計画地東側空地の土砂災害の懸念について

 東棟の東側は、予定建築物の敷地となっており法第33条第1項第2号に規定す

る「その他の公共の用に供する空地」に該当せず、同法の適用は受けない。

6)大雨の際の溢水の懸念について

 本件開発計画の宅地面積は344680平方メートルであり、特定都市河川浸水被

害対策法に規定されている雨水浸透阻害行為の許可基準を満たす13769立方メー

トルの貯留槽が計画されている。

 <略>本市では、上記規定及び基準を受けて、<略>建設局で「開発行為等下水道施設

指導基準」を定めているが、本件開発行為はそれらに適合する内容となっている。

 具体的には、北側竹林から流れ出る雨水は、設置されるU字溝で受け、道路内に

設置される雨水本管に接続する計画であり、設置されるU字溝の排水能力、雨水本

管の排水能力等は法等の上記基準に適合しており、開発区域及び周辺の地域に溢水                    

等の被害が生じないよう計画されていることから法第33条第1項第3号に適合

するものである。

 本件開発区域外である北側竹林から開発区域内に流れ込む雨水については、雨水

流出抑制指導の対象外である。

(7)Aランクの斜面緑地の破壊について

同条例第30条の2で事業者に対し「自然的環境の保全への配慮に関し必要な助                                                                                                                                                                                                                         

言又は指導を行うものとする」とあるが、開発許可権者が開発許可をするに当たり

法に規定する開発許可の基準に拘束されるものであり、当該基準に適合している以

上は必ず許可をしなければならない義務を負わされている。<略>

 また、提供公園については、法第33条第4項に基づく「川崎市都市計画法に基                                               

づく開発許可の基準に関する条例」により、開発区域面積の651パーセントの

面積を有しており、本件処分は適法である。

8)手続き上の瑕疵について

 「公園隣接地主と境界を確定し、同意書の写し」の添付については、法第39

及び第40条第2項の規定に基づき公園の帰属時の申請書の添付図面として求め

ており、法第32条の公園の協議申請に必要な添付図書でない。

9)建築制限解除について

 ア 開発計画の架空性について

 <略>開発許可を受けた者が開発行為に関する設計を変更しようとする場合は、処分庁

あて開発行為変更許可申請が必要となり、申請があれば処分庁は変更申請内容を審査する

ことになる。

 イ 検査は可能なのか。

 工事が完了し届出があったときは、法第36条の規定に基づき工事完了の検査を

実施する。なお、開発行為変更許可処分がされた工事については、当該工事が変更

後の開発許可の内容に適合しているかどうかについて検査を行うことになる。

 ウ 工事の安全性は確保されるのか。

 上記(1)、(2)で述べたとおりである。

 エ 建物周辺の潜脱的盛土は「後埋め工法」によるのか。

 今までの弁明書で述べたとおり設定された地盤に対する高さは建築基準法上の

規定とされ、開発許可基準には建築物の設計地盤の設定、地盤面に対する高さにつ

いての審査規定はない。

10)審査請求人の適格性について

 審査請求人としての資格は行政事件訴訟法第9条で、取消訴訟の原告要件として

「取消を求めるにつき法律上の利益を有する者」に限定されている。したがって審

査請求を提起することができるものは当該処分により自己の権利又は法律上保護

された権利を侵害されるおそれがあり、その取消しによりこれを回復すべき法律上

の利益を持つ者に限られると考えるべきである。

     <略>

審査請求人が主張する被害と懸念の対象については開発許可の基準には緑の破

壊、景観・眺望の妨げ、圧迫感、プライバシーの侵害、風害、工事に伴う影響につ

いての規定はない。

 審査請求人が法第33条第1項第2号、第3号及び単に自己の居住環境の悪化等

を不服申立ての理由とするならば法律上の利益を有する者に該当しないので、審査

請求人としての適格性を欠くものである。

<略>

11)審査請求人の「知る権利・批判の権利」について

 <略>

3 現場検証

 <略>

4 口頭審理

 <略>

 

5 審査庁の判断

 

審査請求人は、本件審査請求(1)で宅地造成工事許可処分の取消しを求めてい

るが、当審査庁は宅地造成等規制法に係る許可処分を取り消す権限を有していないこ

とから、また、本件審査請求(3)で工事完了公告前の建築又は建設承認の取消しを

求めているが、法第
50条の規定により工事完了公告前の建築又は建設承認については

審査請求できないことから、これらの部分の審査請求は却下する。

次に、本件審査請求(1)、本件審査請求(2)、本件審査請求(3)のうち、本

件許可処分と本件変更許可処分(1)、(2)の取消しを求める審査請求の部分に

対し、以下判断する。

1)法第33条第1項第1号への不適合について

  <略>

 法第33条第1項第1号によると、当該申請に係る開発区域内の土地について、                           

用途地域が定められているときは、予定建築物等の用途がこれに適合していなけ

ればならないが、本件開発区域は、第1種中高層住居専用地域であり、本件開発

許可申請書の記載には共同住宅となっており、用途地域の基準に適合しているこ

とが認められる。

 ところで、建築物に関する高さ制限については、法33条の開発許可の基準にはない

ものである。したがて高さ制限については、建築基準法の地盤面等により算定される

べきであり、審査庁の判断するところではない。

2)意図的盛土の違法性について

<略>本件許可処分については、<略>処分庁が、その内容を審査した結果、法第33

の許可基準に適合しており、かつ、その申請の手続きが法及び法に基づく命令の規定に違

反していないと認め<略>たものであり、このことについて誤りは認められない。
審査請

求人は、意図的盛土と主張するが、開
行為において意図的盛土という概念は存在しな

い。

 審査請求人は審査請求(1)において、「開発段階ではこの盛土を予定建築

物の周辺部分だけでなく底辺部分にまで拡大して築いたうえで、建築段階では

この盛土の大部分を(建築物周辺部を残して底辺部分については)撤去すると

いう、2度手間をかけるような非常識な企画が立てられている。しかしながら、

開発計画と建築計画とは一体のものである。・・・これらの盛土は、安全上・

衛生上必要なものでなく、むしろ場所によりマイナスの作用をもち、もっぱら

建築物の主要エリアの平均地盤面を意図的に作り出し、高さや容積の制限を乗

り越え、本来造ることのできない建築ボリュームを造るためである。」ので、

意図的である旨主張する。

 <略>しかしながら、審査請求については、法第50条第1項に、「第29条第1項若しく

は第
2項、第35条の21項、第41条第2項ただし書き、第42条第1項ただし書若しくは第43

条第
1項の規定に基づく処分若しくはこれに係る不作為・・・又はこれらの規定に違反した者

に対する第
81条第1の規定に基づく監督処分に不服がある者は、開発審査会に対して審査請

求をすることができる。」となっており、ここに記載されている条文以外には、審査請

求できないことになっている。
                  

審査請求人らは、口頭審理の場で開発行為許可部署と建築確認部署では各々審査が

及ばず、はざまとなる盛土の目的自体に係る審査をする部署がないのは、おかしいと

主張している。

 審査会としては、審査請求人らの主張については、十分その趣旨を理解する

ことができ、主張には一理あると思われる面もあるが、仮に、そうだとしても、

開発審査会の審査対象となるのは、上記のとおり法第50条第1項に規定され

ており、開発審査会としては法に違反しているか否かを判断する権限しかない

ので、開発計画と建築計画とを一体として争うには司法の場で争えるかどうか

はともかくとしても、開発審査会の権限の範囲を超えるものと言わざるを得な

い。

 <略>

3)違法な盛土の隠蔽策について

 審査請求人は、本件許可申請図面によれば盛土を、予定建築物の底辺にまで

広がる盛土とコンクリート擁壁まで築き、予定建築物を点線で描いているが、

建設段階で撤去する予定の盛土やコンクリート擁壁をわざわざ設置するとい

う開発計画は不合理極まりない。こうした計画は、法第
2条の「土地の合理的

な利用」に反する旨主張している。

 <略>

 審査庁としては、(2)の後半で述べたとおり、法第2条違反を理由として、

本件許可処分及び本件変更許可処分(1)、(2)を取り消すことはできない。

4)前回図面から今回図面への変更点について

 審査請求人は、予定建築物内側部分の盛土・擁壁を描いた前回図面が「宅地

造成等規制法及び関連法規制に準ずるもの」であったとすれば、これを削除し

た今回図面は「宅地造成等規制法及び関連法規制に準ずるもの」とは言えず、

前回図面を許可した処分庁は、今回図面を不許可とすべき旨主張する。

 <略>本件許可処分については、<略>処分庁が、その内容を審査した結果、

法第33条の許可基準に適合しており、かつ、その申請の手続きが法及び法に基

づく命令の規定に違反していないと認め<略>たものであり、このことについて

誤りは認められない。

5)計画地東側空地の土砂災害の懸念について

 審査請求人は、計画地東側空地について、法第33条第1項第2号が適用さ

れ、勘案すべき諸点から同条違反と主張するが、同号は開発区域外の「道路、

公園、広場その他の公共の用に供する空地」に関する規定であり、区域内の

空地については適用されないものと審査庁は判断する。

6)大雨の際の溢水の懸念について

 <略>

 審査庁としては、雨水対策について、法、施行令、開発行為等下水道施設指

導基準に適合しているものと判断する。

7Aランクの斜面緑地の破壊について

 審査請求人は、「川崎市緑の保全及び緑化の推進に関する条例」及び「川崎

市緑化指針」違反と主張しているが、同条例及び同指針は開発許可の基準にな

く、審査庁が判断する事項ではない。

8)手続き上の瑕疵について

「公園隣接地主と境界を確定し、同意書の写し」の添付については、法第39

条及び第40条第2項の規定に基づき公園の帰属時において添付することを

求めており、協議申請時に求められていないので、法律上瑕疵があるとは認め

られない。

9)建築制限解除について

 先に5で述べたように、建築制限解除は法第50条第1項に記載されていな

いので、審査庁として却下せざるを得ないが、次のような疑念があるので、一

言付言することとする。

 法第37条は、「開発許可を受けた開発区域内の土地においては、前条第3

項の公告があるまでの間は、建築物を建築し、又は特定工作物を建設しては

ならない。ただし、次の各号の1に該当するときは、この限りでない」と規

定されている。同条第1号は、当該開発行為に関する工事用の仮設建築物又

は特定工作物を建築し、又は建設するとき、その他都道府県知事(川崎市に

おいては川崎市長)が支障がないと認めたときは建築制限を解除することが

できる旨規定しており、これを受け、川崎市長は建築制限等解除承認に係る

運用基準(以下「制限解除運用基準」という。)を定めている。

この制限解除運用基準によれば、「1承認は次の各号に規定する基準に適                                                                                  合すると認められるものについて行うものとする。」と規定しており、(1

の「当該工事に伴う災害の生じることのないよう防災措置が講ぜられている

こと。」及び(4)アの「建築物等の建築等を宅地の造成と同時に行う場合で、

これを切り離して施工することが不適当であると認められる場合であるこ

と。」に該当すれば、一般的に承認されることが可能となっている。

 処分庁は、平成18511日に申請受付し、同日付け(開発許可日の

翌日)で建築制限解除の承認を行っている。

 しかしながら、建築制限解除はあくまで例外であると考えるならば、より

慎重な扱いをするべきである考え方も成り立つことから、審査会として将来的

な課題として問題提起をしたいと思う。具体的には、本件に則して述べれば、

審査請求人らが主張するように急傾斜地において、大規模な切土、盛土を伴う

開発・宅地造成計画については、安全性を担保するうえでも建築制限解除は慎

重さが求められるので、制限解除運用基準の見直し等を含め、検討するよう要

請する。

10)審査請求人の適格性について

 行政不服審査法第4条第1項にいう「行政庁の処分に不服がある者」とは、

当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は

必然的に侵害されるおそれのある者とされているところである。(最高裁平成

元年(行ツ)第130号同4922日第三小法廷判決参照)

そこで、本件審査請求について、審査請求適格を検討してみる。

 「法第33条第1項第7号の規定については、がけ崩れ等のおそれのない良

好な都市環境の保持・形成を図るとともに、がけ崩れ等による被害が直接的

に及ぶことが想定される開発区域内外の一定範囲の地域の住民の生命、身体

の安全等を、個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含む

ものと解され、開発区域内の土地が同号にいうがけ崩れのおそれが多い土地

等に当たる場合には、がけ崩れ等による直接的な被害を受けることが予想さ

れる範囲の地域に居住する者は、開発許可の取消しを求めるにつき法律上の

利益を有すると解するのが相当である。」(横浜地裁平成9年(行ウ)第10

11428日判決確定参照)と判示し、開発許可処分の取消しを求める                                  

法第33条第1項第7号の規定にかかる審査請求適格については、「がけ崩れ

等による直接的な被害を受けることが予想される範囲の地域に居住する者。」

と判示したものである。

 別紙に記載の審査請求人については、本件開発区域の斜面で、擁壁の設置

や盛土・切土等の造成工事が行われることから、がけ崩れ等による直接的な

被害を受ける危険性が全くないとはいえない隣接ないし近接して居住する者

7名と明らかに本件開発区域から離れて居住する者2名である。

本件開発区域から離れて居住する者2名については法律上保護すべき利

益が有るか否か疑問もあるが、行政事件訴訟法の改正もあり、行政不服審査

法の制度は、広く国民の権利救済のために認められた制度であり、その趣旨

から別紙に記載の審査請求人全員に審査請求適格があるものと判断する。

11)審査請求人の「知る権利・批判の権利」について

 審査庁としても、審査請求人の知る権利・批判の権利について、十分、保証

されるべきである主張は、当然であると考える。

12)眺望権の侵害について

 審査請求人は、口頭審理の場で、予定建築物が建築されることにより、現在

のすばらしい眺望が損なわれると主張するが、眺望権については審査の対象と

はならない。

 

<略>

 なお、審査庁としては、処分庁は今後、審査請求の対応にあたり形式にとらわれ過

ぎず柔軟な対応をするよう、また、周辺住民の求めに対しては、十分な説明を

するよう希望する

 

平成19620

 

川崎市開発審査会

会長  奥村 悳一

教示

 

 この裁決に不服のある者は、横浜地方裁判所に対し川崎市を被告として裁決の取

消訴訟を提起することができる。この取消訴訟は、裁決があったことを知った日か

6ケ月を経過したときは提起することができない。

柿生の里地下室マンション建設の許可取り消しを求める審査請求

   
川崎市開発審査会・裁決書      2007年6月20日
論旨を損なわない範囲で<略>しました。
重要点と思われる箇所を太字・下線で示してあります。
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