200863

川崎市議会議長 鏑木 茂哉  様

   住民投票条例の6月議会議決をやめ、

全市民的討議に付することを求めることに関する陳情

川崎市自治基本条例がその基本理念に明示している通り、市政は、主権者である住民が「その総意によって市を設立し、自治の一部を信託」(第4条)することを基本システムとして成り立っています。

しかし間接民主制は時として、信託した者とされた者との間に重大な乖離やねじれが生じかねません。この時、主権者たる住民が主権を行使し、直接的な意思表明をする手段の一つが住民投票制度と考えます。

だとするなら、住民投票条例は住民の意思ができるだけストレートに表明できることを主眼に制度設計されるべきで、投票テーマをはじめさまざまな条件を付けることで住民の主権行使が制限されることがあってはならないと思います。

提出された川崎市住民投票条例案は、(1)発議権者、(2)対象となる重要事項の範囲とその適否確認の仕組み、(3)議会の拒否権、(4)必要署名数、(5)通常選挙との同日投票など、そのいずれをとっても、本来住民投票制度が予定している理念とはかけ離れたものとなっています。

(1)発議権は住民に限定するのが制度本来のあり方です。

 間接民主制で権限が担保されている市長や議会に発議権を認める必要はありません。

(2)何が「重要事項」なのかは市長ではなく住民自身の判断にまかせるべきです。

住民投票に付することができる「重要事項」の規定はあまりに限定的です。すでに議会や市長の意思決定がなされた事項については「特別な事情」がない限り対象となりえない他、列挙された除外事項(第2条3項)は広範囲かつあいまいです。

 これでは、重要事項か否かの判断は市長にまかされ、住民は署名収集前に門前払いされかねません。住民投

票のテーマにふさわしいかどうかは、発議の賛同署名、本番の投票などを通して住民みずからが下す判断に任せるべきです。

(3)議会の3分の2が反対すれば実施できないのでは制度の意味がありません。

 「重要事項」に該当するか否かの市長による「確認」という関門を越えても、次には議会の3分の2以上の反対があれば実施しないという別の関門が待っています。全国でも例のないこのような規定は、住民投票制度の本来の意義を否定するに等しいものです。

(4)署名要件が11万人というのはあまりに過重です。

直接請求制度が有権者の50分の1(約2万2千人)であることと比べても、資格者総数の10分の1(約11万人)の署名を求めるのはあまりにハードルが高すぎます。

議会からの請求は定数の12分の1、市長にいたっては自分1人で発議できるのです。 

(5)選挙と同じ日に投票するのは大問題です。

 実施経費の抑制を図るため、選挙と同日に実施となっています。しかし国会議員や市長、市議会議員選挙の際の政党選択や候補者選択の判断基準と、住民投票にかかる「重要事項」についての賛否は別の筈です。住民投票の争点については、自分の支持する政党・候補者の主張とは別の判断を行いうることにこそ住民投票の意味があるはずです。

 最終案では、選挙期間中の住民投票運動の禁止が明文化されました。住民投票を一般選挙に従属させることを明確にしたことで、この制度の性格がより鮮明になったというべきでしょう。

(6)何のための住民投票制度なのでしょうか。 

以上の疑問点をつなげて見ると、住民にとっては発議の入り口から出口まで二重三重の高いハードルが設けられていること、逆に市長、議会の側は、住民投票そのものの実施に事実上の拒否権をあたえられるなど、2者の間には権利行使上格段の差が付けられています。

中でも、フリーハンドの市長はその気になれば世論コントロールの手段に使うことも可能という制度です。

結論的にいうなら、今回の条例案は住民投票制度がもつ本来の意義をできるだけ弱め、既存の間接民主主義制度で認められている市長、議会などの権限が侵されないよう、住民の権利を制限する仕組みと言うほかはありません。

【陳情項目】拙速な議決はやめて、市民説明会開催など市民の意見をじっくり聞いてからにしてください。

 市は行政主催の一度の市民説明会も開催せず、パブリックコメットの結果も、市長の条例案発表時まで公表しませんでした。条例案が議会に上程された現在も、市民の認知度はきわめて低いというのが実情です。

 拙速な条例化はかえって有害です。市民説明会を各区で開催するなど、市民に情報を提供し、疑問、批判に耳を傾け、市民みんなで制度を練り上げていくという原点に戻るよう市議会の特段の尽力をお願いする次第です。

                                 
以上


市民からの批判の声は、前例のない請願・陳情
の数(計13件)にも示されました。下記はその1つ。
 ちょっと待った!住民投票条例市長案/市民共同委員会
チラシ No.1(08.6.10)

 全国に悪例残す「住民投票条例」が成立  

 ちょっと待った!住民投票条例市長案/市民共同委員会
チラシ No.2(08.6.13)
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